「ハル、ちゃんと休んでるか?」

 呼ばれた金の髪の少女は声の方へ目もくれず、生クリームがたっぷり乗ったイチゴ色のドリンクを片手に、熊やサメ、耳が大きく赤いズボンを履いたネズミなど、様々な種類の着ぐるみの並んだ部屋の中で、気怠げに手を動かしている。一見、ただの着ぐるみを錬成しているかのように見えるが、その着ぐるみが戦闘にも耐えうる機能的なものであることは、見るものが見れば分かるだろう。
 ちょうど作業していた部分が終わると、やっと手を止めて返事をした。

 「ちーっす、ヴェスナーちゃん久し振りじゃん?」
 「昨日来ただろ!」
 「そうだっけ?いやー、もう時間分かんないね。作っちゃ休んで、散歩行って、戻ってきたら寝て、また着ぐるみ作るのの繰り返し?今が何時かも分かんないっつーか」

 ハルはそこでテーブルの上に手を伸ばし、お菓子の箱を開封する。それは昨日、銀の髪の少女が「差し入れ」と称して持ってきていたチョコレート菓子だった。びりびりとミシン目を裂き、中身を一つ差し出しながら、ハルはやっとその事実を思い出した。

 「メンゴメンゴ!昨日来てたわ!」
 「ほら!!」
 「へーきへーき。まだ頭レネゲイドでいっぱいになってないから」
 「不安だよ!!……はー、悪いな。俺が手伝えればよかったんだけど」

 お菓子を受け取りながらヴェスナーは浅くため息をつく。

 「なんで謝ったし。カワイイ着ぐるみ楽しく作ってるだけじゃん?」
 「あ、そうなの?」
 「あとヴェスナーちゃん、手伝ったら消えちゃうっしょ」
 「手伝ったら消えちゃうから悪かったなってことだよ!」

 分かんね。ハルはそう答えて着ぐるみづくりを再開する。その仕事ぶりを眺め、適当にそのあたりに腰掛けながら、ヴェスナーがテーブルの上に新しいお菓子やお茶を並べていく。

 「で、外はどんなカンジ?」
 「ああ。破壊神級のオルタダストが暴走してるぜ。それと、勘のいいリザーブドが少しずつ真実に迫り始めた、ってところかな。そのうち壁は壊されるだろう」
 「ふーん。でも大体のリザーブドって大人しくしてればこのまま生きてられるっしょ?」
 「いやまあそうなんだけれどもな。アンタみたいにオルタダストがひっくり返す可能性はある――っと、ハル、オルタダストだったときのこと、やっぱり思い出せないか?」
 「んー、ムリ。マジでムリ。つか、そんな自覚もないし。ところでヴェスナーちゃん、長居してるけど大丈夫なの?」

 あ、いけね、と呟いて銀の少女は立ち上がる。そして去り際、着ぐるみを一つ二つ両脇に抱えた。

 「じゃあ明日も来るわ。適度に休むんだぞ」
 「ハイハイ。ヴェスナーちゃんもねー」

 ひらひらと空いている方の手を振って、ハルは再び着ぐるみに向き直る。

 「……大変だね、レジェンドってのも」






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