「ヴェスナー・ヴェーリエ。盟約違反の開き直りを聞きに来た」

 着ぐるみやメイド服を作っている少女の隠れ家に、"ノース"と"サウス"が現れる。
 銀の髪の少女の足元へと白い棘が伸びた。
 
 「っと……お出ましだ。ハル、逃げろ!」

 それをバックステップで躱した少女――
 に、身をやつした竜の化身が、
 ハルという少女――
 に、見える少年を庇うように前に出る。

 「え?ハルくんにどうこうする理由はないから、別に慌てなくて大丈夫だよ?」
 「ハルくん言うなし!ってゆーかこれってウチお呼びでない系?」

 "ノース"が肯定すると、竜の化身は青年に姿を変えて、
 微塵も怯える様子なく、赤い髪の二人の方へと歩み寄る。

 「やるなら外でやろうぜ。俺からも聞きたいことがあるんでね」
 「……おまえ、しらばっくれるつもりだな。干渉不可を言い渡されていたはずだが?」
 「『相互不干渉』だろ。俺はおまえたちに手出し口出ししてませーん」
 「ほう。ではコードに一行混入したのは自然の摂理とでも?」

 問われた竜の化身の視線が横に流れる。
 それはそれだけでその場の全員を納得させうる自白であった。

 「え、ヴェスナーちゃんなんかしたの」
 「しました……ばれてたね……」
 「マジ?ないわー」
 「いいんだよ!……別にいいだろ、あんたらのミスを修正したんだ」

 文句を言われる筋合いもねぇ。
 開き直るヴェスナーに呆れて溜息をつく"ノース"の横で、"サウス"が口を尖らせる。

 「言ってくれればいいじゃん。おかげで逆のことが起きちゃった」
 「まあ、罪悪感がないでもないが、結果的に後が楽になったんだ。あ、そうだ。あんたらが『失敗』したら、最後にもう一行追加するからな」
 「最後に?それって、私たちの……」

 さあ、どうだかな?
 ヴェスナー・ヴェーリエは意地悪そうな笑みを浮かべると、赤の片目でぱちんとウインクした。

 「いや、百行ぐらい必要かもだが……ってことで実行者権限は寄越してもらうぜ。ご苦労さん」
 「……余計なことをするな」
 「いいだろうが。どーせそんときゃあんたらは権限と一緒に意味消失だろ。嫌ならここで俺を消すしかないし、俺はあんたらに勝てる気なんて微塵もしないが、そんなことをしたらそれこそ露骨な盟約違反で一発終了だ。どっちもな。余計かもしれないが悪いことじゃないだろ?」

 二人が返す言葉無く黙ったのを見ると、ルールは公平だからな、と竜は笑い、
 今にも説明をせがんできそうなハルをそっと目で制した。

 「あんたらの計画のどっちもが成功すれば俺だけが消去だ。俺はヒト側に賭けるぜ」









 
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